鉄道の運転士を続ける

運転業務

初投稿でもお伝えしたとおり、某大手鉄道会社を退職した今も某中小民鉄にて運転士を続けております。どこの会社かは一応現役ということなので明言は避けさせていただきます。まあご想像にお任せするということで・・・

大手鉄道会社っていったん事務方になっちまうと現場には管理側でしか戻れないことがほとんどで、これで後悔した人は後を絶たずという状況。ご多分にもれず自分もそのような状態になったというわけですね。今思えば何故にオーケーしてしまったのやら。

要するに辞めた理由は事務方が全く合わなかったからに他ならないのですが、さすれば何の仕事をするべきかイロイロ考えた挙句鉄道の運転士に戻ったというわけです。当然友人からの批判もありましたし、家族に対する説明に窮した場面もありました。陰で何を言われているかはそれこそ知りません。

それでも運転士に戻りました。

というわけで今回は、待遇のよい大手鉄道会社を辞めてもなお運転士を続けている理由について書いていこうと思います。

運転士に必要な資格とは

そもそも運転士の免許とは?

ここに来られる方は相応の鉄道知識がある方が大半と思いますが一応解説しておきますと、列車を運転するには動力車操縦者運転免許というものが必要になります。当方が所有しているものは、

「甲種電気車運転免許」

というものです。軽く言えば、電気で動く鉄道車両全般を動かすことができる免許になります。電気ならなんでもいいというわけではなく、路面電車だと「乙種電気車」、新幹線は「新幹線電気車」となります。

というわけで検索したら

電車の運転免許 | 鉄道用語事典 | 日本民営鉄道協会

出てきますね。流石はいまどき便利なインターネットです。

自動車の免許と違うところは終身免許で適性検査や訓練は鉄道会社が実施して基準を満たしていると乗務することが可能となります。というわけで顔写真は免許取得時のものがそのままということになります。若かりし頃の写真、人によっては横幅やら毛量などがゲフンゲフン・・・

ちなみに記載事項に「所属事業者」という項目があって、事業者が変われば記載事項を変更する手続きが必要になります。知人の例でいえば大阪市交通局で運転士をしていて一時期大阪港トランスポートシステムに出向していた時期があったそうですが、きっちりと事業者の記載変更がされていたとのこと。

よってフリーランスというわけにはいきません。当然といえば当然ですが。

他の事業者で資格は有効なのか

上記の項目をみればもう答えが出ているようなものですが、転職後も免許は有効です。

以前は動力車操縦者運転免許というのは自社資格的な意味合いがあって、他社の免許は通用しないといわれておりました。というのも同じ鉄道でも会社によって規定や信号設備・車両が細かく違っていてそのままでは運転できないという事情があり、変に癖ついた運転士を教育するくらいなら新規に養成したほうがよいという判断もあったと聞きます。

それと免許取得には莫大な費用がかかるといわれており、それを言わば「持ち逃げ」されては会社間のいさかいの原因ともなるということで、以前は紳士協定なるもので運転士の転職はご法度でした。

しかし時代は変わりました。

労働力不足、それに加えて地方民鉄では経営が厳しいということもあり、養成費用と期間の縮小を狙って徐々に運転士の中途採用が増えてきました。今では大手でも免許持ちを採用するようになったのですから本当に変わったものです。

ただ大手の場合はそのまま乗せるようなことはせず一定のキャリアを積ませるようです。ここはやはり違うところですね。

地方民鉄の場合はいともあっさり即採用、下手をすれば駅員採用とは別枠で入社とかいう話も実際に存在します。そして入社当日に規定の説明を受けて翌日からすぐ見習開始とかいう例もあるので逆に面食らう場面も。どれだけ即戦力やねん。

見習い期間は概ね2カ月弱といったところで社内試験も経験者であることを考慮して運転審査だけの場合が多いです。余談ですが、見習期間中の勤務態度も考慮されるので普段からまじめにやることは言うまでもないです。

と、ここまではコロナ騒ぎ以前の話。

例の騒ぎ以降他業種(特に観光バス系)に転じた免許持ちが出戻り殺到しているようで、地方民鉄であってもかなり選考が厳しくなっているようです。実際、免許持ちでも立て続けに4社落ちたという知人もいます。そもそも減便がトレンドになっていて、万年欠員のような会社でも人員的に余裕が出ていて乗務員不足がほぼほぼ解消されたという話もありますので、枠は当然少なくなります。

一過性のものであるかどうかは騒ぎがいつまで続くかによって変わると思います。個人的には需要が復活してもらいたいところですが・・・

コロナ禍初の緊急事態宣言下ではほぼ無人の列車が跳梁跋扈していました

運転士という仕事のメリット・デメリット

というわけで運転士、いったん資格をとったらオーケーに思われますがメリットもあれば当然デメリットがあります。あくまで個人的な意見、そしてどの会社も共通のものを列挙してみたいと思います。

メリット

1.上司が目の前にいない
もちろん点呼のときは目の前に管理者たる上司がいますが、いったん乗務に出ると一人の世界です。多少の人間関係があるとはいえ乗務は単独ですので煩わしさは少ないといえます。

2.仕事が溜まらない
事務屋さんをやっていると有給休暇を取った分だけデスクに仕事が溜まります。自分の持ち分を誰かがやってくれるわけではありません。しかし運転業務というものはひたすら進んでいくもの。休暇の分は代替運転士の仕事になります。これだけでもストレスは少ないのではないでしょうか。

3.なんだかんだで資格モノ
いくら資格保有者が多いとはいえ、おいそれと代わりを用意できる職業じゃないのです。なので変な話、ミスさえしなければ外されるという心配は少ないと考えることができます。中には天狗になって助役に喰ってかかる若い衆もいました。それだけ守られた職種といえるのかもしれません。

4.毎日が違う
同じ線、同じ場所、同じ車両かもしれませんが毎日違う風景が見えます。天気も違えばお客様も違います。当然運転の仕方も日によって列車によって創意工夫が必要になります。変な話、毎日がイレギュラーなんですね。制限の中に裁量を求められるというのは職業人としてよい環境といえます。

デメリット

1.なんでも一人
列車を運転していたら何が起こるかわかりません。人身事故、踏切事故、車両故障に自然災害。いずれの輸送障害も乗務していたらいつかは必ず当たるものです。しかしこの矢面に立つのは当然現場にいちばん近い運転士です。そのうち応援が来るでしょうがそれまでの対処はぜんぶ一人です。

2.眠い
これはガチです。何せ出勤時間がバラバラ、寝る時間もバラバラ、大手になると夜行列車があったりしますが当然昼夜逆転になります。深夜の仮眠時間についてはそれなりに確保されているとはいえ、4時間程度の会社が多いと思います。流石にこの睡眠時間で明けの日は眠いです。

3.事故ったらアウト
プロ運転士たるもの事故を起こさないのが当然ですが、そこは人間何かしらやらかすときはあります。それが些細なスイッチの取り扱い程度であれば被害は最小限ですが信号違反や速度超過など致命的なものだと一発アウトです。大手だったらATS動作でサヨナラとかいう例もあります。そもそもミスをしないのが要件とされている運転職場においてはヒューマンエラーで済む事象であっても「ミスをした運転士」と言われて後々尾をひくことが多いです。それがこの業界の辛いところといえます。

何故もういちど運転士を選んだのか

自分の場合はデメリットがメリットを遥かに上回る業種であることがいちばんの理由です。なにせ裁量の範囲内で自分の技能を思う存分発揮できるという分野は他に見当たらないからです。あとは鉄道が好きだからですね。

あと、よく言われるのが「この仕事しか思いつかなかった」というもの。これは自分にはあてはまらないと思っていますがなんとなくわかる気がします。というか上記理由を読み替えたらこうなりますね。

同じく運転士をしている知人に理由を聞いたところ「最早本能としか言いようがない」という回答をもらったことがありましたが、他に思いつかなかったの亜種みたいなものだと思います。後輩に言わせると「中毒性がある」そうです。これは言いえて妙で、この業界を一度でも経験するとやっぱりハンドルを握りたくなるものなんですよ。

鉄道が好きなら他の職種、例えば駅や指令でもいいのでは?と思うかもしれませんが、運転士は自身の知識技能を発揮できるという点で他ではできない体験を得ることができるのです。

運転士は持続可能な仕事といえるのか

不規則ゆえの睡眠不足と生活リズムの不安定さはこの職種ならではのものです。泊り勤務は他の業種でも多く存在するので珍しくないと思われがちですが、出勤時刻から休日サイクルがこれほどまでに統一性がなくグチャグチャなのは乗務員という特殊性あってのものです。何だかんだでバイオリズムというものは重要で、メンタルヘルス系にお世話になっている業界人が意外に多いのもうなずける話です。

これが怖くてあえて管理側を目指した同期もいました。

あとは会社ガチャ。

単純一泊二日+たまに日勤という会社ならかなり余裕あるライフワークバランスをとれると思いますが、二泊三日行路や早朝出勤が多い会社だと厳しいと思います。それと残業問題。ただでさえ所定行路が厳しいのに人員不足でやたらと時間外ばかりな会社だと「ライフワークバランス?何それおいしいの?」状態になって悲惨です。酷い会社になると予め残業時間込みで行路が組んであったりします。

こればっかりは入ってみなければわからないわけで、いい会社なら御の字。もし誤ってブラックな待遇の会社に入ってしまったらどうするか?

諦めるか?それとも抜け出すか?

今までの場合はは前者を選ぶ例が多かったと思います。しかしながら免許が他所で通用するようになったこのご時世、後者を選択する人が増えてきているような気がします。これがいわゆる「流れ者な運転士」が発生する原因です。

話は若干逸れましたが、労働力の流動化は同業種での移動が容易になったという点で以前に比べ『流れ』に抗いやすくなったのではないかと思います。すなわちやろうと思えば何処でも続けられるのです。

それに業界を見渡すと定年まで運転士という例はかなりの数ですし、それどころか定年後も嘱託・契約採用で継続して運転士をされるという方もいます。

要素は数多くあれど、最後は信念かと思います。

やっぱり運転士!

お金をもらう以上、仕事というものは簡単なものはありません。しかしどうせ一度の人生ならばやりたいことをやって過ごすのがいいと思います。個人的にはそれが運転士という仕事だっただけのことです。

仕事には向き不向きがありますし、自分に『真の適性』があるかはわかりませんが、これだけは言いたいと思います。

運転士はいいぞ!

あかつき

しがない鉄道マン・兼業ミュージシャン。 機関車乗りを長くやったのち電車乗りに。そしてまたもや機関車乗りになったあと電車乗りに。 フラフラしながら今日も小さな電車を転がしています。

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